七夕伝説は日本だけで語られているものではありません。ア
ジアだけでなくヨーロッパなど世界各地でこの星座や天の川に
まつわる物語が多く存在しているます。そして、日本にも数多
くの説があるように、一つの国の中でもその地域によっていく
つもの七夕伝説が語り継がれています。北ヨーロッパでは、天
の川は天上界に通じる橋や道に見立てることが多いようです。
数多く存在する物語の中で、日本の七夕伝説の発祥の地とさ
れる中国と、星にまつわる神話が多く残るギリシア、そして、
北ヨーロッパのフィンランドの物語を紹介します。
【おまけ】
・伝統的七夕
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【中国】
広い中国にはいく種類もの七夕伝説が語り継がれていますが
、その中でも一般的に伝わっている七夕伝説を紹介します。
はるか昔、天上の東方に美しい天女の七人姉妹が住んでいま
した。彼女たちの織る布は幾重にも重なる美しい雲のようで、
その布からできた衣は「天衣」と呼ばれ、羽織れば天地の間を
思うままに行き来できるというものでした。ある日、天女のひ
とりが言いました。
「この天衣を羽織って地上に行き、水浴びをしましょうよ」
一方、地上では、一人の若者が年老いた牛とともに貧しい暮
らしをしていました。若者は両親を早くに亡くし兄夫婦と一緒
に暮らしていましたが、兄夫婦に毎日のようにいじめられ、と
うとうある日
「お前にこの老いぼれ牛をやるから、さっさと出て行け!」
と家を追い出されてしまいました。若者と牛は寄り添いあって
細々と暮らしていましたが、ある日突然その年老いた牛が言葉
を話しこう言いました。
「今日は天上の美しい天女たちが、
地上に降りてきて川で水浴びをするはずです。
その間にそっと天衣を盗んでしまえば、
天女は天に戻れずあなたの妻になるでしょう」
それを聞いた若者は、川のほとりで天女たちが降りてくるの
を木陰に隠れてじっと待っていました。すると、牛が言ったと
おり七人の天女たちが次々と地上に降り立ち、楽しそうに水浴
びを始めました。天衣は若者がいる場所から少し離れていて、
取ろうとすると姿を見られます。
「そうだ、
すばやく飛び出して一気に天衣を奪うとしよう。
それしかない」
若者は隠れていた木陰から飛び出し、すばやく天衣を一枚を
奪い取りました。突然男が現れたことに驚いた天女たちは、次
々と天衣を手に取り逃げていきましたが、若者に天衣を奪われ
た末の妹だけは天へ戻ることができません。天に帰ることをあ
きらめた天女は、若者の妻となりました。そうして若者は田畑
を耕し、天女は機(はた)を織って暮らしました。やがて息子
と娘の二人の子供が生まれ、四人は幸せな生活を送っていまし
た。
ところが、ある日、若者が家に帰ってみると、家の中はがら
んとして二人の子供が泣きじゃくっています。いつまで経って
も戻ってこない天女に天の上帝が怒り、神兵を送って天女を連
れ帰ってしまったのです。若者がぼうぜんとしていると、年老
いた牛が言いました。
「天女を追いかけるのです。
人間は天に昇ることはできませんが、
一つだけ方法があります。
私を殺して皮をはぎ、
その皮をまとうのです。
年老いて働くことができない私を、
あなたは大切にしてくれました。
私のできるご恩返しはそれしかないのです。
さぁ、早く殺しなさい」
若者はずっと自分のために働いてくれて、天女と結婚できた
のもこの牛のおかげだと思うと、とうてい殺すことなんてでき
ません。若者が迷っていると、牛は自ら柱に頭を打ちつけて死
んでしまいました。若者は泣きながら牛の皮をはいでまとい、
二人の子供をかごに入れて担ぐと、天に昇って行きました。
上へ上へ昇っていくと、神兵に連れられて行く天女の姿が見
えてきました。やっとのことで追いつき子供たちが手を伸ばし
て母親のたもとをひっぱろうとした時、天の一角から巨大な手
が伸びてきて天女と若者たちの間にさっと一本の筋をひきまし
た。それは上帝の妹である西王母の手で、頭につけていた金の
簪(かんざし)を抜いて、それで天に筋をひいたのでした。す
るとたちまちそこから水が溢れ出して大河となり、若者と天女
の間はとても大きく広がってしまいました。それを見た小さな
娘が言いました。
「そうだ、ひしゃくで川の水をすくい取ろうよ」
すぐに父と二人の子供は流れる銀河の水を一杯一杯すくい始
めました。これを見た上帝は、妻に対する若者の愛情と母を慕
う子供たちのけなげさに心打たれ、毎年七月七日の夜だけ夫婦
親子が川を渡って会う事を許したのでした。
今も空には金の簪のようにキラキラと光る天の川を挟んで、
若者(牽牛星)と天女(織女星)の星がきらめいています。そ
して牽牛星の隣に並ぶ二つの小さな星が二人の子供、牽牛星の
少し離れたところに見えるひし形に並んだ四つの小さい星が追
いかけてくる若者に天女が投げた杼(ひ)という機織りの道具
、織女星の近くにある三つの小さい星が若者が天女に投げた牛
のくるぶしの骨だと言われています。
cf.
【天衣(てんい)】
天人・天女の衣。天(あま)の羽衣。
【杼/梭(ひ)】
織機の部品の一。緯(よこ)糸を通す用具。かい。シャトル。
−三省堂提供「大辞林第二版」−
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【ギリシア】
昔、ギリシャにたて琴がとても上手な「オルフェウス」とい
う青年がいました。オルフェウスがたて琴を奏でると、そのあ
まりの美しい音色に人々はもちろん、森の動物たちや木々たち
もうっとりと聞きほれてしまうのでした。
ある日オルフェウスがいつものように川のほとりでたて琴を
弾いていると、その音色にあわせてとても美しい少女が踊って
います。その少女はニンフ(妖精)で、名を「エウリディケ」
といいました。
オルフェウスとエウリディケのふたりは、すぐに恋に落ちま
した。やがて二人は結婚して仲むつまじく暮らしていましたが
、ある日エウリディケが川岸を散歩していた時に、あやまって
草に隠れていた毒蛇を踏んでしまいました。すると毒蛇は勢い
よくエウリディケに噛みつき、エウリディケはあっという間に
死んでしまいました。
それから毎日泣き暮らしたオルフェウスでしたが、どうして
もエウリディケのことを諦めることができません。
「そうだ 、あの世へ行って、
大王プルトーンに
エウリディケを生き返らせてもらおう!」
オルフェウスはあの世へと続く険しい地下道をどんどん下っ
ていき、やがて三途の川にたどり着きました。しかしそこで川
の番人が立ちはだかり言いました。
「お前を川の向こうへは渡すことはできない」
オルフェウスはたて琴を取り出し、妻を亡くした悲しみの音
色を奏でました。すると番人は黙って彼を舟に乗せました。そ
の後もあらゆるあの世の番人が彼の行く手をはばもうとしまし
たが、オルフェウスのたて琴の音を聞くと黙って通してくれる
のでした。やがて延々と続く長く暗い地下道を抜けたオルフェ
ウスは、ついにあの世の大王プルトーンのところにたどり着き
ました。オルフェウスは心を込めて悲しみの音色を奏でながら
、プルトーンに妻を生き返らせて欲しいと頼みました。しかし
プルトーンは、
「それだけはできない」
と断るばかり。すると大王の后が、オルフェウスの琴の音のあ
まりの悲しさに
「どうか、オルフェウスの願いをお聞きください・・・」
と涙を流して言いました。プルトーンはしばし考えた後、
「仕方がない。一度だけ許そう。
しかし、
地上に出るまで決して妻の方を振り返ってはならぬぞ」
と言ってエウリディケをオルフェウスの元に返しました。
「あぁ、ありがとうございます」
オルフェウスはもう二度と妻の手を離すまいとしっかりにぎ
りしめて、険しい坂道を上っていきました。やがて薄暗い地下
道にこの世の懐かしい光が差しこみ、あと少しというところに
来たとき、オルフェウスはあまりの嬉しさに思わず後ろを振り
返ってしまいました。するとその瞬間、エウリディケはものす
ごい力で元の道に吸い込まれていき、その姿は一瞬で見えなく
なったのです。オルフェウスは全力で妻の後を追いましたが、
その姿はもうどこにもありません。
やがてまた三途の川の入り口にたどり着きました。オルフェ
ウスはもう一度舟に乗せてもらいたいとたて琴を弾きましたが
、今度ばかりは番人も通してくれません。
オルフェウスは悲しみのあまり山や野をさまよっていました
が、酒に酔ったトラキアの女たちにたて琴を弾けと言われて断
ったために、その場で八つざきにされて殺されてしまいました
。
オルフェウスの首と琴は、死んでもなお悲しい音色を奏でな
がら川を下っていきました。やがて音楽の女神ムサイに拾われ
たオルフェウスの遺体は、リベトラの森に葬られました。
そして大神ゼウスはオルフェウスの琴を拾って星空に上げ、
琴座(こと座)としました。
今も静かな夜には、その悲しげな音色が星空の彼方から聞こ
えてくるのだといいます。
cf.
【トラキア [Thracia]】
バルカン半島の南東部にある地方。地域は時代により範囲が
異なる。現在はエーゲ海北東岸をさし、トルコ領とギリシャ領
から成る。バルカン戦争でその領有が争われた。
−三省堂提供「大辞林第二版」−
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【フィンランド】
あるところに、ズラミスとサラミという仲むつまじい夫婦が
暮らしていました。いつも一緒の二人でしたが、死ぬときだけ
は一緒とはいきません。二人は死んだ後、それぞれ別々に天に
昇り、星となりました。二人の星はかなり離れていてもう会う
ことさえもできませんでした。しかし二人はとても愛し合って
いたので、死んだ後も一緒にいたいと思いました。
そこで二人は、空にただよう星くずを集めて二人の星の間に
光の橋を作って会おうと決めました。それから毎日毎日一生懸
命星をすくっては集めて、すくっては集めて・・・と橋を作り
ました。一年たち、二年たち・・・どれだけ時が流れようとも
二人は諦めることなく橋を作り続けました。
やがて千年もの時がたち、二人の星の間にりっぱな橋ができ
あがりました。キラキラとまばゆい光を放ち輝く光の橋。そう
、これが天の川です。
ズラミスとサラミは光の橋を渡り、シリウスの星のところで
再び会うことができました。二人は喜びの涙を流しながらしっ
かりと抱きあいました。こうして二人は今も夜空でキラキラ輝
きながら仲よく暮らしていると言われています。
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【伝統的七夕】
旧暦など太陰暦にもいろいろなきまりがあり、暦も実は一通
りではありません。「暦」によって七夕の日が変わってもいけ
ないので、「伝統的七夕」は、次のように定義されています。
二十四節気の一つに「処暑(しょしょ)」があります。
「処暑」は、太陽黄経が150度になる瞬間を言うのですが
、この瞬間を含む日を「処暑」と呼ぶようになっています。
「処暑」に最も近い朔(さく=新月)の瞬間を含む日が、太
陰暦での7月のスタートとなりますので、その日から7日目を
「伝統的七夕」の日としています。
[例]2009年の場合、「処暑」は8月23日で、「処暑
」に近い新月が8月20日ですから、8月26日が「伝統的七
夕」となります。
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